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blog版 がおろ亭

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2011年 01月 28日

第四の手

「第三の足」と副題をつけたくなるほどSEXに関するエピソード満載の作品である。
まあ、SEX抜きのアーヴィングの作品って読んだことないけど。
取材中の事故で手を失ったテレビキャスターのパトリック、その移植手術を担当することとなったゼイジャック博士。
断れない色男のパトリックには、付き合った女性が何人もいて、一人の例外を除いてすべて性交渉がある。
一方、ランニング中毒で鳥マニアの博士には、アスリートに変身した家政婦のアーマのみ。
(そのかわり、博士の生活には糞便とか食うことなどフロイト的なネタが満載。)
そこで語られる人間関係には性が大きな要素になっている。

移植された臓器と違って「手」は直接目に触れるものである。
よく、人生は顔に現れると言うけど、手を見れば何をしてきた人かなんとなく分かる。
手は人のキャラクターを象徴するものでもある。
なので、亡くなった夫の手をパトリックに提供して、その手への面会権を主張する女性ドリスの感情も説明はできる。
本当の理解は無理であったとしても。

と言うのは、パトリックが結局、愛することとなるドリスは、しっかりし過ぎていて、わしの好みではなかったから。
こんな女がいたら「あんた何様のつもり?」と言いたくなる。(フェミニストの皆さんごめんなさい。)
けど、愛してしまったパトリックにはどうしようもない。
頑張ってくれと言うしかない。
奥手の博士とアーマの関係によりシンパシーを覚えるのは、わしも体育会系だからか。

SEXの話と移植された手を愛するするという状況設定で霞みがちだけど、この小説のテーマは家族、特に親子の関係、そして人生。
博士は言った。「人生を一つにまとめなさい」
それは、私はこう生きてきた(講演会の題名みたいだけど)、人生の目的はこうですと言えるようになることではないか。
パトリックは第二、第三の手を失うことにはなったが、それをなしえたかにみえる。

上下2巻になっているけど中篇という感じ。
悲劇的なエピソード、ドタバタ、ユーモアなどアーヴィング好きをがっかりさせない要素は押さえてあるので安心して読める。

2001年 ジョン・アーヴィング著 小川高義訳 新潮文庫

by s_space_s | 2011-01-28 23:42 | 読書 | Comments(0)


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