2014年 04月 21日

奥美濃・夜叉壁中央ルンゼ(仮称)初登(宮城さんの記録)

岳人4月号のクロニクル欄に宮城さんの書かれた夜叉壁の記録が掲載されました。
当然ながら編集部の手が入って面白さが半減しているので、ここにオリジナル版をこそっと掲載させていただきます。
写真はこちら
ところで、岳人って8月号で東京新聞発行が終了するそうですね。
モンベル発行になるとスタッフとか編集方針とか変わるのでしょうか?

【山域】奥美濃
【場所】夜叉壁
【日時】2014年1月18日(土)
【コース】広野ダム~夜叉ヶ池~夜叉壁登攀~夜叉ヶ池~広野ダム
【メンバー】宮城公博 30(right&fast)、石原和宏 42(right&fast、岐阜テレマーク倶楽部)、
      石際淳 53(岐阜テレマーク倶楽部)
【天気】曇りのち雪
【タイム】広野ダム7:10 夜叉ヶ池登山口8:00 夜叉ヶ池11:00 夜叉壁へ出発11:45 夜叉壁登攀終了15:00
     登山口16:40 広野ダム17:50 
 

「奥美濃・夜叉壁中央ルンゼ(仮称)初登」
テレマークスキーとウィンタークライミングの融合

 

週末、予定があいてしまい、誰かパートナーはと探していたら、アイスクライミングのゲレンデに行かれるという石際・石原さん達に混ぜて頂ける事になった。「アイスクライミング?いいですね、僕もお邪魔していいですか?ところで、奥美濃に夜叉壁ってのもあるんですが・・・」と半ば強引に切り出してみた。
 

夜叉壁?どこだそこ?と、思われる方が多いかと思う。夜叉壁は奥美濃・三国岳と三周ヶ岳の稜線直下、 標高1000m付近に存在する岩壁帯だ。隣には夜叉ヶ池と呼ばれる、稜線上にありながら周囲230mの規模で存在する不思議な池がある。神秘的で非常に美しい場所で、夏はトレッカーに大人気となっているそうだ。夜叉ヶ池にはヤシャゲンゴロウという、この池にしか生息しない固有種がおり、レッドリストの絶滅危惧種で、夏期はボランティアの方々をはじめ、多くの人が環境保護に尽力しているそうである。
 

そんな夜叉ヶ池の側にある夜叉壁はスケールこそ大きくないものの、春~秋は極一部のマニアックなクライマーに極まれに登られているらしい。ネットでの記録の少なさから、登攀数はおそらく両手で数えられる程ではないかと思う。少なくとも積雪期の記録は未見である。実はこの課題、私がクライミングを始めて間もない9年以上も昔から温め続けきたのだ。あまりに長期に渡り、温め過ぎて、私自身、ここ数年は忘れてしまっていた程だ。
 

この壁の魅力を語り始めれば、きりがない。岩壁がそのまま稜線に突き上げるロケーションの美しさ、丸い樹林の山が連なる奥美濃という山域の中に有りながら、何故かここにだけ岩壁があるというアンバランスさ、名前の格好よさ、何より好きな漫画の舞台ともなっている事。僕にとって今すぐに行かない理由が無いような壁なのだ。
 

しかし、問題はずっとパートナーだった。長いアプローチに加え、冬にあの壁がどうなっているかは全くの未知数、行ってみて、全く登攀意欲を注がれない泥の斜面だったり、思いの他、傾斜がゆるくてほとんど雪で埋まっている可能性も有りうる。そのような事情から、大きな壁で高難度ミックスクライミングを志しているような、いきりたったクライマー達を、遠方からここ奥美濃に呼びつけるのはちょっと気が引けた。そう、この課題に取り組むには樹林の丸い低山の聖地、奥美濃への愛がないとダメなのだ。


つまり、奥美濃を主戦場とする石原・石際ペアがパートナーと決まった以上、もう夜叉壁しかありえなかった。
 

冒頭に書いた通り、もともとゲレンデアイスの予定だったお二人を、直前にかなり強引な誘い方をしたが、そこは奥美濃を愛するお二人、私の目論見通りすぐに快諾してくれた。流石の振る舞いである。
 

夜叉壁のネックはおそらく登攀そのものよりも、長いアプローチだと考えていた。日帰りの予定だったので、ワカンでは時間的に苦しい距離だが、3人交代のラッセルでなんとかこなすつもりでいた。しかし、テレマークスキーを愛用する二人の提案でテレマークでアプローチする事になった。ちなみに私はテレマークどころか、スキー自体、ゲレンデで数度の経験しかない。
 

当日未明、石際邸で車を乗り合わせ、朝方、広野ダムにつく。思ったより雪はしまっており、アプローチの林道をスキーで快適にとばす。ただの林道歩きでも、小さな葉っぱや、動物の糞、足跡、本当に小さな小さな山の生き物たちの息遣いまで見ている二人のいい山屋っぷりが目立つ。

林道が終わり、夜叉ヶ池の南尾根に取り付いてからは、スキー素人の私はもたもたしてしまっていたが、雪も少なく予定よりずいぶん早く、雪で埋まった夜叉ヶ池に到着することができた。実は時間的に偵察だけになる可能性も視野にいれていたので、これは嬉しい。壁のスケールを考えると、弱点を登れば登攀は2~3時間で済むとの目論見で、登攀を結構する事に決めた。スキーと不要な荷物を夜叉ヶ池にデポし、夏場登山道となっているであろうルンゼを150m程くだり、夜叉壁を見上げた。
 

「カッコいい。」
 

正直、想像の5倍は見栄えがした。小雪がチラつき、壁を白く化粧してくれているのもプラス要因だ。夏の写真では壁の全容はよくわからなかったが、大きな一枚の岩壁というよりは、急峻なリッジがいくつか並んでいるいう感じだ。どこを登ろうか迷ったが、回り込んでみていると、なんと、中央に見栄えのする氷瀑が現れるではないか。
 

1月とはいえ、基本的に温かい山域である奥美濃、それも標高1000mという低さにある壁で、まさか氷瀑が発達しているとは思わなかった。「これは冬ならではのライン、登らざるを得ませんね!」と、アイススクリューを持ち合わせていないにも関わらず、二人を強引に氷のラインへとお誘いした。ちなみに石際さんはアイスアックスを持ってきておらず、ピッケルとサブバイルという氷登りでは大変なスタイルだ。割と無茶な提案にも関わらず、二人とも笑顔で「任せますよ。」とまた快諾してくれた。
 

「まるで鹿島槍の氷のリボンみたいだ。チリ雪崩もでてきて演出にも余念がない。」
 

とは石際さんの言葉。氷瀑下の岩までラッセルし、ビレイ点をつくる。この手の岩場ではよくある事なのだが、ボロい上に、摂理がなくて支点作りに苦労する。私の夜叉壁への情熱を察し、全てリードさせてもらえることになった。持ってきたのが44mロープなので、ルートの長さを考えると氷瀑を抜けたところででビレイ点が作れない可能性がある。その場合、最悪コンテになると告げておいた。
 

まずは氷瀑までの雪壁をラッセル。雪もそこそこ降っていて寒いかと思って上着を着ていたのだが、すぐに汗まみれになる。暑すぎる。こんな気温でよく凍るものだと思っていたのだが、氷瀑に付けば、想像通りすぐ下を水が流れるカキ氷状のスカスカ氷だ。うむ、このスカスカ氷ならスクリューなど持ってきてたとしても使う余地がないので持ってこなくて正解だ。氷爆基部横の岩で支点をとると、あとは氷瀑を抜け口までランナウトで対応した。氷を抜けると雪壁になるが、案の定、ビレイ点が作れず、すぐにロープがいっぱいに伸びてしまいコンテになる。雪壁の途中に苦し紛れにアイスアックスを埋めて支点をつくり、その後は上部リッジ下までロープを伸ばし、カムでセルフをとって肩絡みでビレイ。フォローの二人を迎えた。
 

2p目は傾斜の強いリッジだ。小指ぐらいの藪がちょこちょこ生えており、それを掴んで登ることもできたが、せっかくなので奥美濃に似つかわしくないドライツーリングでガシガシ登っていく。なかなか楽しい!最後は気持ちのいい雪稜に飛び出した。周囲の景観はまるで北アルプスのようだ。フォローの二人を迎えると、二人とも笑顔だ。奥美濃でこんなクライミングができるなんて思っていなかっただけに、最高に嬉しい。
 

しかし、核心は登攀の後にまっていた。柔らかい登山靴でテレマークという変則スタイルなので、うまく滑れない。素人の私は当然として、ベテランスキーヤーの二人も苦労している。私はそうそうに諦めてワカンを履いて下り出し、スキーの調子の悪い石原さんも最後はツボ足で歩いておりる事となった。お楽しみのテレマークスキーとはいかず、苦労の下山となってしまった。ただ、林道はやっぱり早く、スキーの機動力を今更ながらに知らされた。
 

帰り際、「宮城くん、ほんとは山スキー楽しいから。靴さえ違えば楽しいから。」と繰り返す石原さんが印象的であった。
 

テレマークスキーとウィンタークライミングを組み合わせることで、また遊びの可能性が無限に広がった。

 

 

 


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by s_space_s | 2014-04-21 12:03 | 山登り | Trackback | Comments(0)
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