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2012年 08月 07日

Invisible

2009年に発表されたポール・オースターのペーパーバックです。
まだ邦訳は出ていないと思います。
春に「シティ・オブ・グラス」と「幻影の書」を読んで,原文でオースターを読んでみたくなりました。

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コロンビア大学で文学を学び詩人を志す学生アダム。
フランスから来た政治学の助教授ボーンとその愛人マーゴットにパーティーで偶然知り合った彼は,ボーンのために文学雑誌を編集してほしいという申し出を受けるのだが・・・。

アマゾンの作品紹介の真似して書いてみましたが,これでは売れんわね。

その後起こった衝撃的な事件が遠因となり,アダムは詩人の道を捨てる。
60歳になり不治の病のため余命幾ばくとなった彼は,人生の転機になった学生時代の出来事を物語として残そうとする・・・。

これなら,どうでしょう。
まだまだ?

書くことに行き詰まったアダムは,大学時代の級友で小説家になったジムに,突然,相談の手紙を書きます。
仮にも詩人を目指していたアダムが何故,ジムに助けを求めたかは理解に苦しむところです。
(読み返してみると,手紙の中に説明はありましたが。)
けど,これがこの小説の重層的な構造と「書くこと」の意味を問うテーマにとって必要な筋書きだったのです。

例によって,英語力の問題と,酒飲んで数ページ読むと眠くなってしまう問題から,読み終わるのにかなり時間がかかってしまいました。
幸い?膝を怪我したせいで時間ができ、一気に読むことができました。
最初のほうのエピソードは忘れてしまったことも多々あります。
備忘録として,わしなりに感じたポイントを書いてみます。

・アダムの青臭い正義感
この正義感が原因でアダムは厳しいしっぺ返しを受け,その後の人生も変わりました。
わしとしては,この主人公の行動や考え方に共感出来る部分は少なかった。
アダム本人もその後,自分の行動も含め「正義」というものを深く考えざるをえなかったのだと思います。

・ボーンの怪物性
ポーンは,最初から,屈折したキャラクターとして登場します。
知的で優しく,激情的で暴力的なのに,どこか捉えどころがない。
第4章でリアルに出てきたときの気持ち悪さが際だっていました。
わしには,むしろ,こちらのキャラクターに興味が湧きました。

・藪の中
ほのめかしがあるだけで,結局何が真実なのか分からない。
殺人や近親相姦はほんとうにあったのか,読者には手がかりが与えられません。
書かれたものの不可視性というテーマはここにもあります。

・視点の転換
アダム亡き後の顛末を描く第4章の最終部分は,女性の書いた日記として展開されます。
第3章までの,ジムが改変したかもしれない,最後には登場人物もイニシャルだけになってしまう小説よりもリアリティーがある。
そして,聴覚と視覚に訴える最後のシーンは"visible"に描かれます。
しかし,それが何を意味するのか説明されることはなく,小説は終わります。

 
このオースターの15番目の作品はレビューを読んでも賛否両論あり,いろんな意見があって,読後に読んでみて1粒で2度楽しめました。
小説の中に,もう一つの小説が物語として展開されるのは,オースターではよくあるパターンです。
さらに,今回は人称と時制が意図的に毎章変化させてあり,この構造に言及しているレビューが多かった。
このあたりは,オースターが趣味でやってることなので,あまり小説の本質とは関係ないと思います。

オースターへのインタビューもネットで幾つか公開されています。
どのような意図でこの小説が書かれたかについて,作者自身のコメントを読むことができます。
けど,作者の意図から小説を解釈しようとするのは読者の手抜きだと思います。
発表された作品はあくまで読者のものであり,より深く理解したければ何回も読みこめばいいのです。

by s_space_s | 2012-08-07 13:00 | 読書 | Comments(0)


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