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blog版 がおろ亭

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2014年 08月 27日

最近読んだ本(日本の山と高山植物・R62号の発明・鉛の卵・庶民烈伝)

★日本の山と高山植物
ものの名前を知ること自体に意味があると思うので、高山植物の名前や特徴を憶えることはいいことだと思います。
次の段階として、高山植物と環境の関わりとか、高山植物がどこから来たのかなど興味を持ったので、この本を読んでみました。
日本の山岳の多様性と希少性を再認識しました。

(ほほう!)と思った話題を幾つかメモします。
・日本の上空では、冬、ヒマラヤの北と南を回ってきたジェット気流が収斂し、平均風速が秒速21mと世界一の強風域となる。
 その強風で植被が削られる風食現象も世界では珍しい。
・大雪山の森林限界は1600m、本州中部では2600m。日本付近では1㎞北上すると森林限界が1m下がる。
・もし日本の山がもっと高かったらハイマツは3200mまでびっしり広がりその上に高山植物群落ができるはず。
 実際は山頂現象(風上の強風と風下の多雪)によりハイマツが生育できないエリアができ、そこに高山植物が入り込んだ。
・森林限界は夏の最暖月の平均気温が10度に一致する。北アルプスの森林限界は気温の上での到達高度より200~400m低い。
 これは山頂現象と岩塊斜面が針葉樹の生育を妨げ森林限界を押し下げているから。
・ホシガラスはハイマツの実を岩の上に運んで食べる。また食べ残しの実を草地に掘って埋める。これが分布拡大の助けになっている。
 しかし、極端な強風地では実をつけることができない。(他の著書によれば、匍匐した枝から根を出して繁殖するとあった。)
・日本列島の大部分は大陸プレートからはぎとられた付加体。チャートや石灰岩など海底で形成された岩石はもともと日本付近でできたものではない。
 (日本国内の石灰岩や鍾乳石を指して、「大昔ここは海底でした」というのは正確ではない。)
・日本は地質の博物館ともいわれるほど地質が多彩。それが山岳における植物の多様性にも寄与している。
・最終氷期の最盛期2万年前より6万年前の寒冷期のほうが日本の氷河が発達した。穂高では横尾付近まで。
 これは日本海に流入する対馬暖流の影響。2万年まえは海面が低下し対馬暖流がストップした。
・白山御前峰の北半分には無植生帯があるが、これは冬の強風の影響ではなく、450年ほど前に翠ヶ池から発生した火砕流が尾根を越えて流れた跡である。

平凡社新書 小泉武栄著


★R62号の発明・鉛の卵
1956年、阿部公房(32歳)が書いた短編集。
東京の神田で娘と待ち合わせすることになり、立ち飲みを梯子しながら、ふらっと入った駅前の本屋で買いました。

「R62号の発明」のラストのグロさは格別です。
この短編の解説で、「機械になった人間が機械を発明して人間に復讐する」というようなくだりをよく見かけます。
けど、機械になってしまった人間には、復讐みたいな非常に人間的な感情は、もはや存在しないと思います。
人間を消耗品・パーツとして機械に組み込むことの不条理こそ、この作品の気味悪さなのだと思います。

田舎に赴任した教師の違和感を不条理な出来事で綴る「鏡と呼子」。
その世界はカフカのそれを思い出させます。
主人公が、カフカの「城」の主人公と同じKとなっているのは偶然ではないのかも。
Kafkaのイニシャルでもありますし。
でも、単純に公房のKだったりして。

タイムカプセルとか言って小学生が校庭に空き缶を埋めたりしますね。
「鉛の卵」はそれの人間版。
1987年に埋められ2087年に目覚める予定が、80万年後の地球で「古代人」として目覚めてしまった男のお話です。
80万年後の地球には植物化しながら高度な知性を持ったヒトの子孫がいるのですが、「古代人」とは全く異なる価値観を持っています。
光合成できるので労働に価値など置いてませんし、賭け事が大好きで、長生き過ぎで死にたがっている。
養分は下半身の房から摂れるので、食欲はないし、食べることが犯罪行為とみなされています。
最後の大どんでん返しで、この植物人間以外にも「古代人」と同じ形態と性質を持つ未来人がいることが分かるのですが、どっちが自分の「正当な子孫」なのか自分で良く分からなくなって来て、大声で泣いてしまうのでした。
どっちもなんじゃねえの?

新潮文庫 


★庶民烈伝
1970年、深沢七郎(56歳)が書いた短編集。
長良北町の古本屋「鯨書房」の百円均一の棚にあったのを見つけました。
烈伝というだけに、ここに描かれる庶民の一生は凄まじい。

死ぬまで周りに迷惑かけまいと嘘をついた「おくま」婆さん。
親の性病のせいで醜女になり刑務所帰りの旦那は再犯で死刑となり、目が悪くなってお針子仕事ができなくなって数年で死んだおセン。
広島原爆で目がつぶれた按摩おタミは、目に焼き付いた原爆雲の中に神を見る。
キャバレーのママの座争奪戦。引退ママで知っている人がいるのですが、ありそうな話で面白かった。
「べえべえぶし」の善兵衛を殺すに刃物はいらぬ。稲の消毒すればよい。
品物にならない「お化け梨」ができる病気が流行り、転作する腹を隠しながら探り合う梨栽培農家の治助と軍平。

序章で庶民の定義が語られます。
強情で意地っ張り、騙されやすく、世間の目を気にするのが庶民。
資本家、作家、俳優、スポーツ選手など上昇志向や自己顕示欲を持つものは「異常神経」の持ち主で庶民ではない。
わしもそう思います。

新潮文庫





by s_space_s | 2014-08-27 22:01 | 読書 | Comments(0)


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