blog版 がおろ亭

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2014年 10月 01日

人間そっくり

近年「気違い」という言葉は、マスコミでは使われなくなったが、この言葉には対象者に対する理解不能とそれに伴う不安という感覚がある。
ある朝、「こんにちは火星人」という番組を書いている放送作家の「ぼく」の自宅に「人間そっくり」な火星人と名乗る男が訪れる。
「ぼく」は、状況から判断して、この男を「気違い」と思っているが、自分は火星人だと主張する「気違い」の話に振り回されるうちに、なにが真実なのか自分でも不安になってくる。

精神科医や心理カウンセラーの先生で、ちょっとおかしいと感じる人がたまにいる。
こういう方たちは、患者や対象者とのコミュニケーションは避けられず、正気を保つのに何か特別な方法でもあるのだろうか。
もし、この男のように理路整然と状況を説明されたら、その前提がおかしくても、アイデンティティを脅かされるのではないか。

この小説で、位相幾何学(トポロジー)という言葉を初めて知った。
トポロジーの考え方では量、距離というのは意味がなく、位相によって事象は定義される。
複雑な次元のことはわしでは理解不能だが、ドーナツと取っ手の付いたコーヒーカップの位相が同一というのは感覚的に理解できる。
ドーナツとコーヒーカップはホモトピーによって連続的に変形できる。
男が言うには、火星人と地球人は位相としては同一(そっくり)なのだ。

男は「気違い」になったのか、本当に火星に転送されてしまったのか。
トポロジーによって火星人とホモトピーになってしまった今、「ぼく」には事実を確認する術がない。
どちらにせよ、5年前に書かれた「砂の女」と同じく、救いのないラストである。

1967年 阿部公房著 新潮文庫





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by s_space_s | 2014-10-01 18:39 | 読書 | Comments(0)


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